編集長のズボラ料理(478) 貝柱とカブの酒粕スープ
おふくろは元旦のおとそ以外は、酒を口にしなかった。しかし酒粕(さけかす)を焼いて、砂糖をつけて食べていた。好物の1つだった。
僕も子どものころに、時々食べてみたが、どうも苦手だった。酒粕のモサモサした食感と、酒に近い泥臭さの味とにおいが、なかなかなじめなかった。砂糖は、その嫌な部分をごまかすためのようなものと考えていた。
おふくろは甘酒も飲んだ。甘酒ブームが今も続いている。おふくろの甘酒好きは、その走りだったのかもしれない。酒粕を使った甘酒もあるからだ。
大人になって、酒粕にはアルコール分がないと知った。おふくろは「奈良漬けを食べても酔う」と言っていたほど酒には弱かっのに、不思議でならなかったが、「なーんだ、アルコール分がないのか」と、やっと腑に落ちた。
露店やバザーなどの催しの際に、甘酒を買って飲んむことがあった。なぜかはしが1本ついていた。はしで混ぜて、酒粕を溶かすためだろうが、なぜ1本なのかが疑問だった。溶かすためならば、1ぜん2本の方が圧倒的に効率的ではないか。
混ぜた後、飲む時ははしが邪魔になる。へたをすると、鼻の穴に入ってしまう。こう考えると、甘酒に1本はしは、全く合理性がない。
ただ、ブームの甘酒にははしは必要ない。酒粕ではなく、米と米麹(こうじ)で作っているのが主流だからだ。瓶を振ってから飲めばいい。
僕は日本酒好きだから、何も甘酒を飲む必要はない。ところが、三重県の道の駅で、人生が変わってしまった。京都府亀岡市、丹山酒造が売り場を持っていて、日本酒の品定めにのぞくと、自社の「京の酒蔵仕込みあまざけ」の試飲を懸命に薦めた。懸命さに負けて飲んでみた。甘い。しかも、マイルドな甘さ。いくらでも飲めると思ってしまった。
そうなると、試飲ではすまなくなる。まんまと作戦に引っかかって、1本購入した。買おうと思った日本酒の方はやめて。僕の脇の甘さが出てしまった。それ以来、いろいろな酒蔵の甘酒を飲んでいる。試飲もせずに。
カブは皮をむき、大き目に切り、だしで煮る。味付けは砂糖とみりんを少々、それに白だし。柔らかくなったら、ホタテ貝の貝柱入れ、酒粕を溶いて、もう少し煮る。お椀に入れ、彩りにハクサイの葉を千切りにして散らす。
粕汁の変形、簡略版である。カブも貝柱もマイルド系の味だから、物足りないといって、甘酒を一緒に飲むにのはお薦めしない。はしは2本をお薦めする。(梶川伸)2021.02.03
更新日時 2021/02/03