編集長のズボラ料理(465) バター茶碗蒸し
茶碗蒸しを作るのは難しい。あのなめらかできめ細かな食感は、素人にはできない。
まず第一に、うちには気の利いた蒸し器がない。いや、大きな金属製の蒸し器があるにはあるにはある。しかし、通常は邪魔になるので、台所の流しの下の収納スペースの奥の方に入っている。
引っ張り出すのが面倒くさいので、使う機会が少なくなる。腰を曲げて手を伸ばさないと、蒸し器に届かない。しかし、年をとって、腰を曲げるのはしんどい。ストレッチ体操さえ敬遠しているのに、蒸し器出し体操をする気にならない。ということで、蒸し器は奥の方で眠ったまま、それどころが熟睡体制に入っている。
そこで、安易に電子レンジに頼る。これがまた難しい。チーンで何分にすればいいのか。
長すぎれば固くなってすが入るし、短すぎると固まらない。仕方がないから、ふたをラップにして茶碗の中が見えるようにし、レンジの外から中を監視しようとする。ところが、レンジの全面のガラスが黒くて、中が見えない。つまり監視は意味がない。
製法をさかのぼれば、卵とだしの割合がよくわからない。調べるつもりもないから、適当に決める。茶碗1つに卵1つの時もあれば、茶碗2つに卵1つとの間で揺れ動く。気分次第だから安定感がない。
だから、茶碗蒸しは店で食べるに限る。できれば少しランクの上の店で。茶碗蒸しを添え物や数を増やすために出すことはないからだ。
簡単な料理は難しい。料理に関する基礎能力、技術や経験ががもろに出るからだろう。それらの要素が皆無なズボラは、どうすればいいのか。思いついたことがある。簡単だから難しいので、少し複雑にすれば克服できるのいではないか。
茶碗に水を8分目入れ、それを鍋に移す。茶碗蒸しを作る数だけ繰り返す。だしのもとと白だし少々を入れて温める。いったん冷やして、茶碗の数だの卵を加えてよくかき混ぜる。
鶏、シイタケを適度な大きさに切り、軽く味をつけて少し煮る。茶碗に鶏、シイタケを入れ、だしと卵を混ぜたものを注ぎ、レンジでチーンをする。できた茶碗蒸しを取り出し、薄切りにしたバターを上に乗せ、さらに豆乳を少し注ぎ、しばらくふたをする。
これならば、単純は茶碗蒸しほどアラは出ない。型―と豆乳で、味の成功幅は広がる。うまくいかなければ、別の名前をつけて、茶碗蒸しではないと主張すればいいだけだ。(梶川伸)2020.12.15
更新日時 2020/12/15