編集長のズボラ料理(437) 豚肉と梨の炒め物
またである。「テレビで見た」と家族が言う。前にも書いたが、これは「作れ」と同義語である。
「梨をすって豚肉を漬けで炒める」らしい。追及すると、「オイスターソースを使っていた」「梨はスライスも使っていた」と語り、次第に全容が明らかになってきたが、後ははお任せ。まあ、豚肉とリンゴは作ったことがあるので、何とかなるやろ。
梨は幸水を使ったが、この品種には縁がある。40年も昔、徳島市に住んでいた。子どもが小さかったこともあって、梨狩りに行った。木におびただしいセミが止まっていたのを、今でも覚えている。大人は梨狩り、子どもはセミ狩りとなった。
そこで食べたのが、幸水だった。そのころの梨の主流は二十世紀。僕は幸水など知らなかったし、食べたこともなかったので、バクバク食べようと思ったが、案外食べられないものだ。確か2個でギブアップしてしたように思う。
肌は二十世紀が黄緑かかって爽やかなのに、幸水は茶色くてどこか泥臭い。読みは「香水」と同じだが、そのイメージとはほど遠い。ただ、おふくろは長十郎が好きだったので、茶色い梨も見てはいたが、見た目の軍配は二十世紀に挙がる。
幸水を食べてみると、甘味がある。二十世紀は下手をすると、芯に近い部分をかじって酸っぱいので、「すっぱいした」と思ったことが何度かある。その点、幸水はその確率が低い。
問題がないわけではない。幸水のほかに新水、豊水といったまぎらわい品種があることだ。しかし新しい世紀になった時、二十一世紀という品種ができ、二十を食べるか二十一を食べるか、迷ったことに比べれれば、まだましかもしれない。
弟が梨の産地の千葉県に住んでいて毎年、幸水を送ってくる。最初は豊水を送ってきたので、「幸水はあるか」と聞いて、その後は改心して僕の思い通りになった。
弟の梨があったので、それを使った。皮をむいてすりおろし、冷凍庫にあった豚肉の切り落としを漬けておいた。別に梨をスライスしておく。フライパンに油をひき、梨漬け豚肉を炒め、あとから梨スライスも加えて炒める。味付けは砂糖、しょうゆ、酒、オイスターソース。
家であるものばかりでできた、とニンマリしていたら、家族がとんでもないことを言い出した。「確か、スペアリブを使ってた」。もう遅いワイ。それに、スペアリブは冷蔵庫にナシ。(梶川伸)2020.09.13
更新日時 2020/09/13