編集長のズボラ料理(73) モズクうどん
僕は毎日新聞の記者として、四国で2度勤務したことがある。友だちもできて、たまに大阪にやって来ると、一緒に酒を飲む。
僕が現役記者のころ、愛媛県宇和島市の友人から電話があった。「梅田着6時のバスで行くから、飲もか。1杯だけ。後は用事があるから」
大変だあ。6時なんて。午前6時なんて。安い夜行バスを使うのだという。仕方がないから、会社の宿直室に泊まり、バス停まで迎えに行った。そんな時間に、居酒屋がやっているはずがない。
コンビニで缶ビールとつまみを買い、会社で飲んだ。2本ずつ空けて、彼は出て行った。別れ際に、一言「また、来るわ」。
もう、来んでええ。と思ったが、よく宇和島のジャコ天をもらうから、その言葉を飲み込んで、「またな」と言ってしまい、ひと眠りしてから仕事をした。
高知県東洋町の友人は、商用のついでに寄る。物静かな酒飲みである。大阪市・南田辺の「スタンドアサヒ」のような昭和情緒が漂う居酒屋が好みらしく、決まってカウンターに座り、チビチビとやる。
「物静か」と書いたが、実はそれを通り越して、無口な男である。店で待ち合わせると、「よう」で始まり、黙々と酒を飲む。
別に用事があって出会っているわけではない。会話がないから、全く盛り上がらない。面白くも何ともない。最後は「じゃあ」と言って、店を出ていく。「じゃあ、何なの?」と思うが、それは口に出さず、僕も「じゃあ」と返して別れる。
四国八十八カ所の歩き遍路をしている時、彼の家に泊めてもらったことがある。僕の知り合いの学生4人組みが遍路をした時、金がないというので頼み込み、泊めてもらったこともある。見ず知らずの学生に、夕食も振る舞ってくれた。いい男だ。そんな恩があるから、「よう」と「じゃあ」でも我慢できる。
先日、高松市の友人がやってきた。午後1時過ぎだったが、「酒を飲もう」という。「沖縄にいってみたい」と聞いていたので、梅田の九州・沖縄料理の居酒屋「きばいやんせ~」に案内した。僕は海ブドウやモズクが好きで、それをあてにしようと目論んだ。
店に着いて注文すると、昼の時間は定食中心で、ほかのメニューは出すのに時間がかかると、顔なじみの大将が言う。やむをえず、海ブドウとマグロの刺し身が乗っている丼を頼んだ。ご飯の上の海ブドウをつまんで、ポン酢につけて、酒を飲んだ。でも、すぐになくなった。
1時間ほどして、店の昼の時間が終わった。丼のご飯は、ほとんど残っていた。友人は「もの足りない」という。「モズクも食べたかった」とも言う。そんなことは、知るか。ご飯でも食べとけ。こんな時間に来る方が悪い。とは思うが、飲み友だちとしてはグッと抑えて、「またな」と形式的なあいさつで別れた。
そこでモズクである。先日、5つ入りのインスタントうどんを買い、1つ残っていたので、それを使った。「高松といえば、うどん」の連想である。モズクはザルに入れ、三杯酢を落としておく。うどんを作って、その上に乗せる。素うどんに飽きてきていた、文句言いで、時間もわきまえない酒飲みではあるが、今回はいいヒントをくれたから許す。(梶川伸)
更新日時 2014/02/15