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編集長のズボラ料理(503) 鯛めし

鯛の骨は固いので、取り除いておく

 新型コロナウイルスは、生活のさまざまな面に影響が出た。料亭などで使う魚介類が売れなくなり、値段が下がっているとニュースで知ってはいたが、そのことが分かりやすいものが鯛だろう。
 切り身3枚と、2つ割りにした頭、それにちょっとしたアラがセットになって800円ほどで売っている。これでも安いと思う。それが値下げで600円くらいになる時がある。買う以外にない。
 団塊の世代以前の人間にとって、鯛は高級魚でごちそうだった。子どもころは、鯛を1匹塩焼きにして食べるのは、正月くらいのものだった。「正月=鯛」は、算数も数学も習う前から知っている方程式だった。
 しかし、この方程式はやがて崩れていく。親父も僕も、転勤族だったからだ。名古屋では正月の魚はボラだった。エビフリャーならまだしも、ボラとは。出世魚だからだが、「うみゃあー」「めでてぃえなあー」と言って食べ、その後で熱田神宮に行かなければならなかった。
 和歌山ではカツオだった。小ぶりの1匹を真っ黒になるくらいに焼いて、食べる。その後、「行こら」という掛け声で、家族そろって日前宮に行かなければならない。
 大阪ではフグだった。弟の奥さんは大阪生まれの大阪育ちで、実家では年末に黒門市場に買いに行き、正月にてっちりを食べるのが恒例だったらしい。食べた後は、住吉大社に行くか、吉本新喜劇に行くか、の選択だったのかどうかは聞かなかったが。
 黒門市場はインバウンド需要で値段が上がり、「大坂の台所」と言われながら、地元客が激減した。コロナ禍で外国人観光客が行かなくなり、閑散とした商店街になり、やっと改心したのか、値段は少しずつ元の値段に戻っていった。コロナ禍の状況変化だった。
 鯛に戻る。神戸勤務のころ、料亭のランチをよく食べに行った。部屋は和室で、雰囲気がある。定食はいつも鯛の頭のアラ炊きだった。夜は鯛の刺身を出し、残った部分を昼の定食に使っていたのだろ。そう思っていた。
 遍路旅の先達で四国に行く。遍路だから値段を抑えた宿に泊まる。夕食に鯛のアラ炊きが出てくることがままある。鯛の頭の使用量は結構な数になる。
 その時考える。頭の数ほど刺し身が出ているのだろうかと。鯛が頭だけで泳いでいるわけでもないし。疑問は解けない。
 スーパーで鯛のセットを買ってくる。切り身3つを塩焼きにする。焼き上がると、2つはそのまま食べるが、残りの一つは身を骨から外しておく。炊き込みご飯を作るため、シメジ、コンニャク、揚げを小さく切り、しょうゆ、みりん、酒に漬けておく。炊飯器で米をたくが、米の上にコンブを乗せ、さらに身を外した骨、それと漬け込んだ具を加えて炊く。でき上ったら、ほぐした身を加えて混ぜ、茶碗に盛る。頭などのアラは、ショウガ、梅干し、白ネギ、コンブも用意し、酒、みりん、しょうゆでアラ炊きにする。
 鯛を3つのバージョンで食べる。これにさし身を買ってくれば、鯛を丸ごと食べたことになる。それなら、鯛1匹を買ってくればいいようなものだが。(梶川伸)2021.06.01

更新日時 2021/06/01


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