編集長のズボラ料理(432) キムチご飯ギョウザ
仕事の現役時代、友人が大阪に遊びに来て一杯飲む際、案内すると喜ばれる場所が3つあった。タコ焼き、大阪市大正区の沖縄料理、大阪市・鶴橋の焼き肉の店。この3個所は、「ええカッコしい」の東京人に対しても優位に立てる。
タコ焼きは「蛸の徹」によく行った。ここはテーブルに座り、自分で作る。僕たち大阪人間は、それぞれの家にもれなくタコ焼き器があるから、作るのはお手の物である。
東京人は自宅で作った経験がない。店といものは、何でも完成品で出てくると思い込んでいる。自らの手を使うなど、プライドが許さない。だから誘っても、乗り気ではない。
店での変化が面白い。店員がタコ焼きのセット運んでくると、本気になってくる。小さな容器で生地を鉄板の穴に流し入れる際も、穴ごとにあふれないように真剣に注いていく。
そこで大阪人の出番である。「鉄板全体に、ザーッと流せばいいのよ」。タコなどの中身を入れる時も、慎重行動に対して「バラバラーッでいいから」と追い打ちをかけ、2連勝する。タコ焼きをひっくり返す時に、同時に東京コンプレックスをひっくり返すことができる。
大正区は沖縄出身者が多いので、島歌を演奏してくれる店に誘う。まず、スクガラス、豆腐よう、島ラッキョウを頼む。沖縄料理のべテランとして軽いジャブだが、東京人は意表を突かれる。続いて、ゴーヤはチャンプルではなく天ぷらで頼み、その代わり麩(ふ)チャンプルにしてフェイントをかければ、完全にこちらのペースに持ち込める。
焼き肉の場合は、鶴橋に連れて行くだけでいい。近鉄電車で行けば、なおいい。ドアが開いたとたんの、あの焼き肉のにおい。それだけで圧倒できる。できれば、市場を案内し、キムチの山の間を通り抜ければ、ダメ押しと言ってもいい。冬になって、牡蠣(かき)のキムチを紹介すれば、東京人はグーの音も出ないはずだ。
キムチはスーパーでもよく買うが、ほんの少し残ることがある。ギョウザの皮が少しあまることもままある。その2つを使う。刻んだキムチとご飯をボールに入れ、刻みネギも加えてよく混ぜる。それをギョウザの皮で包む。フライパンに並べて焼き、途中で水を差して蒸し焼きにし、最後のふたを取って、皮を焼く。水には少し白だしを加えておく。
これも東京人は驚くに違いない。僕自身、鶴橋でも見かけたことはないから、レアものだと思う。東京人に限らず、普通の人は、こんなしょうもないもの、作らないだけのことなのだが。(梶川伸)2020.08.24
更新日時 2020/08/24