寺の花ものがたり(69) 蓮長寺(奈良市)の金木犀=10月上旬~中旬
幹線道路を折れると、山門まで参道が一直線に伸びている。両側は夾竹桃(きょうちくとう)の並木になっている。夏の名残の赤い花が、ぽつぽつと咲いている。住職の河田行隆さんによると、昭和30年代に植えた。30株近くある。
参道を歩き始めると、次第に車が走る音は消えていく。中ほどまで進むと、金木犀きんもくせい)の強い香りに包まれ、秋の訪れを感じる。山門の方に目をやる。門が額縁となって、境内の風景を切り取っている。真ん中に石のとうろうが立っていて、残りの空間は金木犀がすべて覆っている。
境内に入ると、本堂の前の左右に、大きな金木犀の木が2本。高さは6、7メートルあり、こんもりとした形に刈ってある。香りはそこから漂っていた。
昭和になった記念に植えたらしい。「昭和6(1931)年に花が咲くようになった、という記録がある」。樹齢は80年になる。台風などの対策で支柱が枝の重みを受け止めているが、樹勢は衰えておらず、寺の象徴のような木だ。
「以前は秋の彼岸が過ぎると、咲いていた。地球温暖化の影響でしょうか、最近は遅くなり、10月になってから。咲き出すといっぺんに咲く」
満開の時期は、大きな木が小さな花で黄金色に変わる。花が落ちると、地面も黄金色に染まる。上品な香りは、少し離れた庫裏(くり)の中まで流れてくると言う。
木は本堂と高さを競う。毎年7月に枝を切ってもらう。本堂の屋根のとゆにかかるからだ。
金木犀の横に1本の銀木犀があり、同じ時期に白い花を木全体に散りばめる。金銀そろって、境内に小さな秋を演出する。ただ、銀木犀の方は、あまり香りがしないそうだ。主役はやはり金である。(梶川伸)
◇蓮長寺(れんちょうじ)◇
奈良市油阪町426。0742-22-3273。近鉄奈良駅から徒歩5分。境内自由。奈良時代末期の開創と伝えられる。日蓮宗に改宗し、寺号は日蓮が出家した時の名をとっている。。本尊は釈迦如来(しゃかにょらい)。本堂は重文で、大和郡山城主、豊臣秀長が建立した西岸寺のもを移築した。
=2005年10月13日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありましので、ご了承ください)2016.10.03
更新日時 2016/10/03