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編集長のズボラ料理(199) 揚げナスのズッキーニ・トマトソース

ソースは好きなものを刻んで加えても良い

 毎日新聞の記者時代の同僚が、愛媛県宇和島市に住んでいる。記者としての最後の担当が宇和島市を中心とする愛媛県西南部で、そのまま住み着いた。
 お互いに退職しても、時々出会うことがある。彼の口癖は、「携帯電話を手放して、やっと人間らしくなった」である。
 記者にとって携帯電話は必須アイテムと言える。携帯の着信音が鳴ると、それは必ずといっていいほど、仕事の連絡だった。彼の在任中には、宇和島水産高校の練習船「えひめ丸」が実習航海でハワイに行った際、急浮上したアメリカの潜水艦に衝突されて、生徒と教師9人が死亡する大きな出来事があった。また、徳洲会病院の医師ががんにかかった肝臓を移植移植に使い、その賛否が大問題になったこともあった。
 そんな一報が携帯で知らされる。携帯の着信音は、大事件の取材開始を知らせるものでもあった。記者としての仕事は好きなのだが、いつもビクビクするようになってしまったという。だから、仕事をやめると同時に、携帯を手放した。今は携帯音とは無縁の生活で、心穏やかに暮らしているらしい。
 その彼が退職後の楽しみに選んだのが、野菜づくりだった。夫婦2人暮らしなのに、たくさん作る。収穫した大根、ピーマン、ナス、キュウリ、シシトウ、ゴーヤなどは、友人に配りまくる。僕の家にもよく届く。大きな段ボール箱に入れて。
 それで彼は心穏やかだろうが、こちらは穏やかではない。量が多すぎる。近所にもおすそ分けするのだが、それでも手元に大量に残る。これを腐らせないように使い切るのは、並大抵の苦労ではない。すでに7、8回を数えるが、腐らせないで食べ切きったことは1度もない。
 今回送ってきてくれた中に、初めてズッキーニが入っていた。僕がズッキーニを食べ始めたのは、いつごろだったかを考えてみる。10年ほど前だろうか。スーパーにも並ぶようになったので、目にはついていた。ただ、新しいものはとっつきにくい。そのうえ、見た目がキュウリのようだったので、ちゅうちょしていた期間がかなりあった。
 そのうちズッキーニがカボチャの一種と知って、オズオズと食べ始めた。食べてみれば、なかなかいける。好ッキーになってきた。
 僕の住んでいるのは半田舎なので、20分も歩けば田畑が広がる。そこでズッキーニもよく見かけるようになってきた。それほど普及してきたということだろう。地元産品を売る店でも今は、当たり前のように並んでいる。友人の彼も心穏やかに、その流れに乗ったに違いない。
 ナスを輪切りにして、小麦粉をまぶし、油で揚げる。それを皿に並べる。ズッキーニ、トマト、ドライトマト、ベーコン、セロリを小さく切り、オリーブオイルで炒める。塩、コショウで味をつけ、赤ワインも少し入れる。それをソースにしてナスの上にかける。
 送られてきたズッキーニとナスは、この料理でも少々、消費した。しかし残念ながら今回も一部を腐らせてしまった。それはゴーヤだった。友情を食べ切るには、大変な努力がいることを、今回も思い知らされた。(梶川伸)2016.07.30

更新日時 2016/07/30


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