寺の花ものがたり(54) 本松寺(兵庫県明石市)山桃=6月中旬~7月初旬
寺は阪神大震災で大きな被害を受けた。本堂を改修し、庫裏を建て替えた。本堂の前に、新しくなった建物とは対照的な山桃(やまもも)の古木が、どっしりと根を張っている。
樹齢は300年を超えると推定されている。高さは6メートルほど。幅は10メートルまで枝を広げている。半球状で、住職の釋(しゃく)孝修さんは「聖僧樹」と説明する。「もとはお釈迦(しゃか)様のあたまのように刈り込まれていた。お寺のシンボルです」
葉で覆われた半球の中をのぞいてみた。太い幹は1メートルの高さで枝分かれしている。枝も直径が50センチもありそうだ。「子どもころに木に登っては叱られた」。子どもにとっては、手近なジャングルジムだったのかもしれない。
ただし、老いは隠せない。木は古色を帯び、幹には空洞も見える。10本の石柱が全体を支えている。しかし、ごつごつした幹と枝のうねりを見ていると、風雨に耐えて生きてきた老木の意地を感じる。
紹介するのは花ではなく、赤い実である。釋さんはその色を、ワインレッドと表現した。木の古色とは正反対のすがすがしさがある。ブドウの房のように小さな身を寄せ合っている。口に含むと、甘酸っぱい。近所の人たちが、摘みにくると言う。そして鳥も。
ワインレッドはやがて黒味を含んだ赤となり、熟して土に落ちる。年によってでき具合が違うが、実が落ちて赤いじゅうたんになる年もあるそうだ。
山桃は雌雄異株である。雄株は本堂裏の枯山水の庭園にある。庭は宮本武蔵の作と伝えられる。「二つの築山に、大小の枯れ滝があるのが特徴で、二刀流に通じる」。その庭と本堂の屋根を越え、花粉が雌株まで飛んでいき、ワインレッドに結実する。(梶川伸)
◇本松寺◇
兵庫県明石市上ノ丸1-17。078-912-6800。山陽電鉄人丸前駅から徒歩10分、明石駅から15分。境内自由。豊臣秀吉に仕えた藤井勝介によって、別の場所に建立された。元禄4(1691)年に現在地に移転。本尊は日蓮上人の大曼荼羅(だいまんだら)。庭園の拝観は事前に申し込み。
=2005年6月30日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もあるので、ご了承ください)2016.05.29
更新日時 2016/05/29