編集長のズボラ料理(589) セロリのピクルス
新聞記者の現役時代から、Tシャツが好きだった。政治部や経済部ではそうもいかないだろうが、僕は社会部の系統だから、何とかなった。
「火事現場にスーツで行けるか」「水害の取材でネクタイはいらん」。そんな屁理屈をこねていたが、実際には堅苦しい恰好やネクタイや時計のように締め付けるものが嫌いなだっただけのこと。
Tシャツは模様のない一色が好きだった。色は蛍光色のような派手な色が大好きだった。特に黄色はいい。交通整理のおじさんみたいだから、事故に遭うことがない。さらに言えば、そでの先を絞っていないものがいい。ここまで絞ると、ユニクロしかなかった。だから、ユニクロがダサいと言われていた時からの大ファンだった。
最近のユニクロには不満がある。デザインされたものがほとんどで、一色ものはあまりない。しかも、紺や黒や灰色といった系統の無難なものばかり。真っ黄、真っ赤などない。まして、蛍光色などここ数年、見たことがない。さらに言わしてもらえれば、そでの先は絞ったものばかり。
こんな地味さでは、新庄ビッグボスなどには見向きもされないだろう。ビッグボスは何もしなくても目立つが、僕の場合は性格がおとなしいので、蛍光色一色Tシャツぐらいしか存在感を示せないではないか。どうすればいいのだ。
着たい色と、見みた色は別だからおかしい。花屋さんに苗を買いに行く。白い花を選ぶ。大阪市・中之島公園のバラ園で好きなのは、シュネービッチェン。「白いお嬢さん」を意味する控えめな花で、よく咲く以外にあまり特徴がない。それがいい。見る花と切るTシャツとの、何たるギャップ。
食べ物では、山ウドの白が印象に残る。奈良県天川村出身の友人を先生にして、天川村で山菜採りを楽しんだことがある。モミジダケ、ミツバダケ、コシアブラ、タラの芽。中でも山ウドの白には驚いた。
ウドを引き抜く。土がついているにで、アマゴが泳いでいるせせらぎで洗う。真っ白な茎が輝いた。地中の自然の恵み。鼻に近づける。ミョウガとハッカを合わせたのような香りが立つ。外側の皮をはずして、かじってみる。シャキットとしているが、ヤマイモノような滑らかさもある。口の中に春の香りと味が広がった。
今回は山ウドの印象にちょっと似た白いセロリを使った。ピーラーで筋を取り、斜め切りにする。ワインビネガーにクレイジーペッパー(なければコショウと好みのハーブ)を加えたものに、しばらく漬けておく。
この白を、鮮やかなTシャツを着て食べる。このアンバランスさ。食べると着るとでは大違い。(梶川伸)2022.03.27
更新日時 2022/03/27