編集長のズボラ料理(562) サーモンとピーマンの南蛮漬け
毎日新聞に入社して、所任地は和歌山だった。初めて住む土地だから、知らないこと、「へぇ~」と思うことが多かった。
1番は、和歌山の人の話し言葉は、ざ行とだ行が逆転することだった。「銅像」は「ぞうどう」になる。
電話取材の時は困った。姓名などの固有名詞の漢字を教えてもらう時は、「字解」といって、1つずつ漢字を説明がいる。対面取材なら、最後は紙に書いてもらえばいい。しかし、電話取材では話し言葉での字解なので、、何が何だかわかやなくなる。
例えば、「財前」さんの場合、普通なら「財産の財」となる。「前」は「前後の前」だが、「ぜんごのぜん」でいい。
和歌山ではどうなるか。「だいさんのだい、でんごのでん」。なんじゃらほい。
話し言葉だけかと思っていたら、行きつけの喫茶店の看板に「サダエ」と書いてあった。「何やコリャー」ではあるが、サザエの絵も描いてあったので、何とか理解できたが。
言葉で戸惑ったのは、ほかにもある。それは田辺市、たな梅本店の四角いかまぼこだった。白い色をしているが、上面に丸い茶色の焦げがある。
名前は南蛮焼きだが、かなりの和歌山県人はなんば焼きと言う。どちらにしても固有名詞のなに、一般名詞にように使うから、かまぼこの和歌山弁かと思ったほどだ。
でも、和歌山以外でも、鴨(かも)の入ったソバを、鴨南蛮とも言うし、鴨なんばとも言う。考えてみれば、「ぞうどう」に比べれば、全く大したことはない。
室町時代末から、ポルトガルやスペインといった新しい国の人が次々と日本にやってきた。そんな国を南蛮と呼び、日本にもたらした新しい食べ物も南蛮と呼ぶようになったらしい。南蛮焼きには、「新しい」とい意味が込められているという。
新しい食べ物の代表が南蛮漬け。小魚を油で揚げ、二杯酢や三杯酢に漬ける。長崎では郷土料理となり、日本全体でも人気料理となった。今回のズボラ料理は、その系譜を受け継ぐ。
サーモンを食べやすい大きさに切り、小麦粉にコーンスターチを少し加えて、サーモンにまぶす。ピーマンはヘタと種を取り、縦に4等分し、サッと油で揚げる。酢、しょうゆ、砂糖、みりん、ゴマ油を混ぜ、サーモンとピーマンを漬けて南蛮漬けにする。
小魚が大きな魚の切り身に変わっただけで、ありきたりの料理になってしまった。少しで新しさを出すために、「サーモンとピーマンのなんば漬け」と書けばよかった。(梶川伸)2021,11.16
更新日時 2021/11/16