編集長のズボラ料理(520) 卵・レタス・ワカメのお茶サラダ
学研都市という言葉がある。あった、と言った方がいい。
正式には関西学術研究都市。研究機関を核にした街づくりだった。1カ所にまとまっているのではなく、大阪府、京都府、奈良県に分散して核を形成している。
当初はバブルの時期にもかかり、土地の値上がり率が全国1位になるなど、話題となった。30年以上たって街は成熟したり、バブル崩壊のあおりで研究機関の撤退が相次いだりで、学研都市という言い方は地元でも聞かなくなった。
僕の家は京都府と奈良県のほぼ府県境にあり、学研の核に結構近い。だから学究的な日々を送っている。
京都府精華町の学研の最中核までは歩いて1時間20分。国立国会図書館関西館もあり、ちょっとのぞいてみる。こう書けばかっこいいのだが、すぐに図書館を出て、けいはんな記念公園の日本庭園に向かう。ここは65歳以上は無料だからだ。つまり図書館は経由地としての役割に徹している。学究に徹するのは難しいもんだ。
別方向に45分歩く、奈良市の核に行きつく。三輪そうめん研究所の展示スペースを訪ね、「何を研究しているか」と聞き、「梅雨を2回超すと、なぜおいしくなるかがテーマ」と返ってくる。そんな学術的な会話を楽しんだ。
しかし、研究所は撤退してしまい、研究結果が出たかどうかも知らない。しかも、そうめんは香川県・小豆島のものを食べるのだから、知的やり取りのかけらもない。学究の志は長続きしないのだ、
1番近いのは、京都市木津川市の核「ハイタッチリサーチパーク」で、歩いて20分。松下幸之助の記念館があって、よく行った。無料だし、人がいない。幸之助の言葉がたくさん紹介され、「事業経営で一番根本になることは、経営理念を確立すること。①この会社は何のために存在しているのか②この会社はどのようなやり方で経営を行っていうのかを示す」といった名言を胸に刻むふりをして、その先のスーパーまで散歩の足を伸ばした。
記念館が撤退し、隣の福寿園が施設を広げた。そこで僕も、最近は福寿園に行く。何十種類もの茶の木が植えてある。お茶について学ぶつもりだが、ついつい客が少ないカフェ「花茶人」で、抹茶のスイーツか抹茶パフェを食べて、静かにお茶を濁す。そして、学究の意欲は、食欲には負けると悟る。
お茶の葉をすりこ木ですり、粉にする。薄焼き卵を作って細切りにする。塩蔵ワカメの塩を抜き、食べやすい長さに切る。レタスはざく切り。それらを皿に盛り、お茶の粉を振りかけ、ポン酢で和える。
学研都市の学究的散歩の成果が、この料理なのだ。ありきたり見えるかのしれない、レベルは低いと茶々を入れないでほしい。(梶川伸)2021.07.10
更新日時 2021/07/10